福福生活next

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

箪笥のなか



子供のころ、家にある古い箪笥のひきだしを開けるのが好きだった。
大人のいないときを見計らって、こっそりと祖母や母の嫁入り箪笥を開けたり、茶箪笥や仏壇の小さなひきだしの中を眺めるのは小さな探検だった。
日常的に使われていないそのひきだしの中は、ふだん目にすることのないものでいっぱいだった。
樟脳の香りの染み付いた祖母の着物、母が子供には絶対触らせない人形、いつから仕舞われていたのかわからない見たこともない茶碗やスプーン、葬儀用の黒い腕章、国旗、壊れた眼鏡、煙管、それら古い物が発する独特の匂い、そして何も入っていない空っぽのひきだし・・・

「箪笥のなか」はそんな思い出を呼び起こす不思議で温かい物語である。

「わたし」と弟が親戚からゆずられた‘古めかしい’‘紅い’箪笥を車ではこんでいるシーンから幕をあける。
箪笥をひきとった姉・弟のまわりでは箪笥のひきだしが異界への通路になっているかのごとく、不思議な出来事が次々と起きていく。

かといってサスペンス的なことや怖い出来事が起こるのではなく、なにげない日常の中でふと隣に異界の肌触りや息遣いを感じるような、それでいてそのことが何ら特別なことではなく淡々と物語は進んでいく。
弟は子供のころから見えないはずのものを見、聞こえないはずの声を聞く人間であった。
弟はふつうに見たもの聞いたものを語り、家族も周囲の人も慣れているのかふつうにそれを聞く。
ひきだしに不思議が起きれば、それを見にやって来る。
箪笥はいろんな思いを飲み込み、そして吐き出す。現在と過去が交わる。
箪笥によって昔の記憶が呼び起こされ、失せ物はめぐりめぐって戻ってくる。
与えればその返礼がある。古風で律儀な箪笥である。

なんだかうまく表現できなくて困っているのだけど、とにかく読む人の感覚を心地よく刺激する豊かなイメージがあふれている物語だ。
米光一成氏の解説もよい。
登場人物に名前が与えられていないこともイメージを妨げない要因かもしれない

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://hanamame.blog10.fc2.com/tb.php/573-0cee61c9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。